平成13年度プロポーザル


国家プロジェクト提案部門

 

実世界指向インタフェースにおける
大スクリーン表示と携帯端末との連携技術
筑波大学 電子・情報工学系 
教授  田中 二郎

1.プロジェクト申請予定のテーマ

「実世界指向インタフェースにおける大スクリーン表示と携帯端末との連携技術」に関連した数テーマを申請する。 申請テーマとしては、 大テーマとして「大スクリーン表示と携帯端末との連携技術」が考えられる。またそのための要素技術として、「多様な形式のイベントやアクションを統合的かつ効率的な形式で扱えるライブラリの開発」、「3 次元を扱い自動レイアウト可能なビジュアルシステム生成系の開発」などが考えられる。 また、 応用テーマとして、「大スクリーン操作のための実世界指向リモコンの開発」、「情報教育用第二世代コンピュータルームの研究」などが考えられる。


2.プロポーザルの概要

最近、従来のようなコンピュータに代わり可搬性をもつモバイル端末が注目を集めている。 コンピュータの表示も従来型のディスプレイから携帯情報端末(Personal Digital Assistance: PDA)や携帯電話などのより小さな端末、またプロジェクタにより投影されるような大スクリーンへの表示に分化が進んでいくと考えられる。

PDAや携帯電話などのより小さな端末で、従来型のGUIが有効かどうかについてはまだ決着がついていない(いわゆるBaby Face問題)。しかしながら、PDAや携帯電話用の表示については、 今後、ビデオ画像や3次元アニメーションなどの表示が実用化すると考えられる。また、PDA や携帯電話にはスペース的な制約から通常のキーボードに相当するものがない。そこでPDA や携帯電話用の小画面表示や操作のためには、たとえばユーザによるジェスチャー入力のような、より拡張されたイベントやアクションを取り込むことが重要となる。

また、大スクリーンについても、従来のものよりドット数が数倍から数十倍の巨大ディスプレイ(Large Format Display: LFD)が使われるようになり、3D グラフィックスなどの利用を含め、今後、教育現場などに急速に普及が進行すると考えられる。

大スクリーンの利用については、通常のパソコンのデスクトップを大スクリーンに投影し、実際にはパソコンのキーボードやマウスを操作することも考えられるが、その場合、教育現場などでは、パソコン操作により授業の流れが中断してしまう。また、LFDを使う場合、 従来のパソコンには画面が一部しか収まりきらず、全体を縮小して画面に収めても文字や図形などが縮小され過ぎて良く見えず、操作もしづらいという問題が生じる。

大スクリーンを直接に操作する場合、通常のマウス操作では目標物にとどかない。そのため、アイコン投げインタフェースのような新たなインタフェースを考察する必要がある。また、ユーザの動作やジェスチャーのような、より拡張されたイベントによるスクリーンの操作を可能とする必要がある。

こういった点で、大スクリーン表示と小画面表示には「多様な形式のイベントやアクションを扱う必要性」という点で共通の特徴がある。そのため我々は、大スクリーン表示と小画面表示に共通のライブラリを提供する。同時に部品として、3 次元インタラクションのための3 次元パーツを用意する。また、大スクリーン表示と小画面表示についても、今後、ビデオ画像や3次元アニメーションなどの表示の高度化が進行すると考えられ、既存のコンテンツをこうした大スクリーン表示と小画面表示で再利用するための変換手法や補正手法に関しても研究を行なう必要がある。

また、現状では、大画面向けと小画面向けの二種類のコンテンツを別個に作り出さなければならない。これに対して、ひとつの元となるコンテンツから両者を生成できるような仕組みがあれば好都合である。すなわち、元となるコンテンツに適当な意味記述を付与することによって、小画面向けの省略表示と大画面用の表示を生成し、操作に関しては、小画面向けの操作機能を備えたプログラムと大画面向けの操作機能を備えたプログラムの両方を生成する仕組みがあ
れば便利である。

そのための枠組として、イベントやアクションも扱うことのできるビジュアルシステム生成系を用意する。ビジュアルシステム生成系は 3 次元パーツをパーシング(認識)し、パーツの間の関係を制約として定義し、それらに対しアクション(動作)を定義する。

ビジュアルシステム生成系を用いることにより、3 次元パーツの変形、組合せやアニメーションの記述も容易になる。また、ビジュアルシステム生成系は制約解消に基づき、部品を認識する過程で整形を行なう自動レイアウト機能を持つ。 例えば2次元のドローイングツールでも自動レイアウト機能を持つものがあるが、自動レイアウトがその真価を発揮するのはレイアウトの自由度が大きい 3次元空間であると思われる。 スケーラビリティのある3次元表示やアニメーションを実現するには制約解消系の高速化がシステム実現への鍵となると考えられる。

大スクリーン表示と小画面表示とに共通なライブラリを提供した後で、大スクリーン表示と小画面表示の連携技術についてズーミングインタフェースを含め研究を行なう。大スクリーン表示と小画面表示との間での情報交換、たとえば、教室において、各生徒はそれぞれの持つPDA で作業をおこない、当てられた生徒は、大スクリーンに回答を表示する、また、生徒は大スクリーンに表示された宿題をコピーして家で作業する、などを可能にするような連携メカニズムを実装する。


3.申請予定先

応募対象のプロジェクトとしては、NEDO、IPA、TAO等が公募する産学協同プロジェクトのうち予算規模が年間数千万の中規模なプロジェクトを複数個、応募の候補として考えている。本年度の公募プロジェクトの詳細についてはまだ発表されていないが、過去の公募テーマから該当する可能性のあるものをあげると以下のようになる。

■IPA
IPA情報技術開発支援事業
独創的情報技術育成事業に係る開発

■TAO
ギガビットネットワーク利活用研究開発
創造的情報通信システム研究開発事業
地域提案型研究開発
産学連携支援・若手研究者支援型研究開発

■NEDO
マッチングファンド方式による産学連携研究開発事業
新規産業創出型産業科学技術研究開発
即効型地域新生コンソーシアム研究開発事業


一つの公募プロジェクトに複数の企業と一緒に応募するのでは予算規模が合わないので、各プロジェクト毎に委員会のメンバーのサブセットで応募することにしたい。必要に応じて、産側、学側の旧調査研究のメンバーにも声をかけるようにしたい。

候補となる学側メンバーとしては、提案者と共同研究者の他に、インタフェース分野の第一人者であり、モバイル関係でも実際にシステムを作っている慶応大学の安村通晃氏(TAO経験者)、 実世界指向インタフェース分野で第一人者となっている玉川大学の椎尾一郎氏(NEDO経験者)などが候補として考えられる。この両候補は、今年在外のためメンバーからは外したが、必要に応じ電子メール等での相談が可能である。


4.準備調査の計画

具体的な進め方としては、1〜2カ月に一回の頻度で委員会を開き、メンバー間で意見交換や調査報告を行なう委員会方式とする。委員の中から応募プロジェクト毎に参加企業や応募メンバーを選択しサブタスクグループを作る。〆切の近いプロジェクトから順にサブタスクグループの案について委員会で検討を積み重ねて行くようにする。


5.共同研究者

学側のメンバーとしては、田中の他に以下のメンバーの了解を得ている。

  大澤 範高    メディア教育開発センター 研究開発部 助教授 
  志築 文太郎   筑波大学 電子・情報工学系 助手
  細部 博史    国立情報学研究所 ソフトウェア研究系 助手

過去に田中は、3 次元モデラやビジュアルシステム生成系に関する研究を行なってきた。 大澤は、 3 次元ライブラリや可視化に関して、細部は、高速な制約解消系、自動レイアウトに関して、志築は、ビジュアルプログラミングやズーミングインタフェースに関して研究を行なってきた。

参加メンバーとしては、企業側からも参加を呼びかけたい。現実にはまだ呼びかけを行なっていないが、過去の調査研究を行なった企業側のメンバー等を始めとして協賛企業に広く呼びかけたいと考えている。

 

 

 

モバイル環境向け自然言語処理に関する研究
 
東京大学 情報基盤センター
教授  中川 裕志

1.プロジェクト申請予定のテーマ

「モバイル環境向け自然言語処理に関する研究」


2.プロポーザルの概要

従来の自然言語処理技術はテキストを対象にしたオフライン処理あるいはインターネット経由にせよワークステーションやパソコンから使用することが前提であった。一方、最近のモバイル環境とりわけ携帯端末のめざましい普及を鑑みると、モバイルギアである携帯端末の小さい画面、およびLAN環境に比べれば狭い帯域しか確保できないモバイル通信環境を前提にした情報処理技術の必要性が高まっている。現状のモバイル環境では、メールにせよ i-mode のようなホームページアクセスにせよ、送受される内容はテキストデータが中心である。そこで本研究ではモバイル環境向けの自然言語処理研究をテーマとして申請する。

モバイル環境向けの自然言語処理技術としては、入力、出力インタフェースは当然のこと、モバイル環境で十分な情報を利用者に提供するようなコンテンツの構造についての検討が必要である。これは、携帯端末が数10文字しか表示できない狭い画面であること、通信に従量制の課金がされることが従来とは異なる技術を必要とするからである。新規に携帯端末向けのコンテンツを開発するにせよ、通常のパソコンの画面向きに作られたコンテンツを携帯端末向けに変換するにせよ、自然言語処理によって効果的なテキストの入力、表示を行うことが重要である。そこで本研究では以下に列挙する具体的なテーマについて検討する。


(1) 原文の意味を保存する言い換え技術: 例えば、体言止め(例: 「審議する」--> 「審議」)、同義語置き換え(例: Windows98 --> Win98)、原文の階層構造の利用した冗長表現の圧縮、数詞の単位の省略可能性、などを検討する。

(2) 原文の意味を保存しない言い換え技術: 例えば、文脈から見ての不要な部分の省略、圧縮率の大きな自動要約技術、情報抽出技術、などを検討する。これらは個別には研究が進んでいるが、モバイル環境の特殊性を勘案した研究はない。モバイル環境を考慮することによって従来の研究の枠組を越えた技術が創造されることが期待される。

(3) 表データの表示: Webページのコンテンツに頻繁に見られる表の表示を小さな画面で直接行うことができない。そこで、利用者の意図に応じた部分を切り出して表示するような対話型の焦点化方策と表示技法について検討する。

(4) 一般化携帯端末向けコンテンツ記述言語: 携帯端末は進歩が早いため、個別携帯端末に適合するコンテンツをいちいち開発することは無駄が大きい。そこで、一般的なモバイル環境を想定しつつも個別の端末機能や方式とは独立したXMLを基本とするマークアップ型のコンテンツ記述言語の研究を行う。このような一般的な記述言語のコンテンツを個別端末からのオンデマンドで変換するソフトウェアの研究も行う。

(5) 入力方式: 少ないキー数しかない携帯端末における効率的な入力方式についての基礎検討を行う。

以上の諸テーマは必ずしも独立していない。そこで、個別テーマの有機的結合を図りつつ、携帯端末の進化に十分に対応できるような自然言語処理技術を検討する。このような検討を通して、既に世界の先端にある日本の携帯端末技術をさらに競争力の強いものにする。また、少ない文字数で十分な内容を伝える表示方式は、結果的に高齢者に優しい大きな文字で表示を可能にする。よって、ディジタルデバイド解消や高齢者対策に応用することも本研究の視野に入ってくる。


3.申請予定先

TAO、IPA


4.準備調査の計画

(1)各種モバイル環境の調査: 現在でも多数に上る携帯端末の機能の調査を行う。とりわけ、i-mode記述言語のCHTML、EzwebのHDMLなどのWAP系言語、Palm、を中心に XML などW3Cの標準化動向について調査する。また、利用者の心理や使い勝手などの調査を通じて、一般化携帯端末向けコンテンツ記述言語の概要をまとめる。さらに、実現方式に関しては、端末側に搭載するソフトウェアの可能性についても調べる。

(2)自然言語処理技術の調査と新規提案の模索: 自然言語処理分野で研究の進んでいる諸技術、すなわち自動要約、情報抽出、言い換え、情報検索について調査し、これをベースにして携帯端末向けコンテンツに特有の技術を模索し、具体性のある提案を行う。


5.メンバー

代表者: 中川 裕志   東京大学 情報基盤センター 教授
分担者: 杉本 雅則   東京大学 情報基盤センター 助教授
分担者: 渡部 聰彦   東京大学 情報基盤センター 助手
分担者: 田中 久美子 東京大学 大学院情報学環 講師

 

 

 

ポリシー技術と電子商取引システムへの応用
 
国立情報学研究所
教授  本位田 真一

1.プロジェクト申請予定のテーマ

「ポリシー技術と電子商取引システムへの応用」

  キーワード: セキュリティポリシー、B2B取引、エージェント、オントロジ、
           ビジネスパターン、形式的仕様記述、AOP


2.プロポーザルの概要

(1) 背景
近年、ボトムアップ的に広がっているインターネットをベースに、企業内LAN、電子政府も含まれる個人用サービスの相互乗り入れが起こっている。一方、社会情勢の変化に追従するために組織の構造も、利用者による要求も常に変化し、プラットフォームの技術革新のペースも速まっている。そうした中で、性能等のサービス品質(QoS)、セキュリティ要請などが、動的に変化し、再構成される事態が頻発している。 こうした現状において、非機能的要求を、宣言的なポリシーとして記述し、動的に品質をコントロールするような技術が有効であろうと目されている。そうした研究は、従来より、セキュリティポリシー、ネットワークルーティングポリシーなど、個別のものとして扱われてきたが、これらのポリシーの間には、一般に競合(コンフリクト)が内在しうるものである。また、ポリシーは管理ドメインごとに局所的に分析・設計されるため、ドメインの間での競合も起こりがちであり、異種ドメイン間での管理ポリシーの調停が必要である。特に電子商取引が、個人向け取引(いわゆるB2C)から、企業間取引(B2B)に展開しようとしている中で、複数のプラットフォームの混在、セキュリティポリシーのミスマッチといった問題に加えて、企業間のビジネスプロセスの共有化が急務とされている。そうした中で、非機能的要求に限らず、ビジネスプロセスをも含んだポリシーを取り扱えることが望ましいといえる。また、ポリシーは、利用者にとっては理解しやすい宣言的な記述ではあるが、それをソフトウェアに反映させるにあたっては、ソフトウェアのいろいろな部分に分散されることになり、その整合性のチェック、頻繁な変更への対応は大きな負担となる。プログラミングのレベルにおいても、非機能的要求を機能要求と独立に分析/設計して、後になって融合させるプログラミング方式であるAOP(Aspect Oriented Programming)も広く世の中の注目を集めている。この技術も、ポリシーをソフトウェアに反映させるための基礎技術として有力視されているものの一つと位置付けることができる。


(2) 概要
複数のポリシー間のコンフリクトの解消には、ポリシーを大域的かつ統合的に取り扱い、必要に応じて、交渉による問題解決を図るような枠組が必要となる。本研究プロジェクトでは、いろいろな観点のポリシーの共通部分、固有部分を分析し、それを統合的に記述できる文書技術ならびに、ポリシー間のコンフリクトを検出し、その解決を図るエージェント技術を構築することを目的とする。その結果、ボトムアップに構築されてきたサブネットワークから全体としてより高い能力を引き出す最適化を実現できると期待している。本研究プロジェクトでは、セキュリティポリシー、ネットワークルーティングポリシーといった分散環境の低レベルの管理ポリシーだけでなく、商業活動におけるビジネスプロセスのようなものまで拡大して、同じ枠組みで取り扱うことを試みる。そこで、本プロジェクトでは、前述の一般的なポリシー技術を確立するのに加えて、具体的な課題として電子商取引システムへの応用を取り上げることで、実用性・現実性から遊離しない研究を目指す。


(3) 具体的なアプローチ
ポリシー関連技術を記述技術、分析技術、競合解消技術、構築技術に分類して、個々にアプローチすると共に、電子商取引エージェントへの適用という具体的課題を設定することで、個々の技術の統合を図る。

(a) ポリシー記述技術セキュリティや性能などいろいろな異なる観点のポリシーを統一的に記述するために、それらの間の共通部分と、固有部分を分析し、汎用性と拡張性の両方を備えた文書技術の確立を図る。その一つとして、観点固有、ドメイン固有のオントロジをポリシー記述言語から分離する。同言語のフォーマットは、流通性と今後の発展性を考慮してXMLベースとする。ポリシー記述のための研究ならび規格としては、国際団体IETF(The Internet Engineering Task Force)におけるPCIM(Policy Core Information Model)や、英国Imperial大学の分散システム管理のためのポリシー記述言語Ponderがある。IETFのアプローチは、Coreモデルをまず与えて、次に観点固有のモデル(たとえば、QPIM; QoS Policy Information Model)を提供するというものであり、本研究プロジェクトのアプローチと似ているが、観点固有のモデルとしては、QPIM以外は進んでいないものと思われる。これに対し本研究プロジェクトにおける独自性は、具体的な幾つかの観点を取り上げて、そこから共通点を抽出すること、共通点と固有部分に注目してオントロジの分析と整理を試みるといったアプローチにある。

(b) ポリシー分析技術ポリシー間の関係を論理的に分析、検証し、それらの間に内在する技術的な競合を検出し整理する技術。形式的仕様技術を基礎とし、異なるドメイン(管理単位)間、ならびに異なる観点の間でのポリシーの関係を取り扱うための基礎技術を確立する。また、動的なポリシー解析を可能にするように、インクリメンタルな分析技術にもアプローチする。ここでの解析対象は、形式的仕様技術に基づいた定性的な分析ばかりではなく性能評価技術に基づく定量的な分析も必要となるので、そうした技術の調査も必要である。

(c) ポリシー競合解消技術ここでは、ポリシーをソフトウェアに反映させる技術を研究開発する。大きく分けて、静的競合解消と動的競合解消とに分ける。静的競合解消は、ソフトウェアの開発時点で、与えられているポリシーを反映させ、ソフトウェアとして組み立てる技術である。ここでは、近年、注目を浴びているAOP(Aspect Oriented Programming)技術をもとに本研究プロジェクトの目的に合致するように発展させる。もう一方の動的競合解消技術は、ポリシー間の競合を解消するための交渉エージェントを構築するものであり、ポリシーの変化、ポリシーを持った新たな管理主体の参加に応じて、全体を調整するような、動的かつ自律的な合意形成のための技術である。これには、代替案提案、提案評価(ランク付け)といった対象分野固有の基礎技術だけでなく、エージェント間の交渉プロトコル、アーキテクチャなどの汎用の合意形成技術が必要となる。

(d) ポリシー構築技術ポリシーを取り扱う枠組みとなる技術があっても、ポリシーそのものが記述できなければ、利用することができない。ポリシーを構築するための方法論、パターン、ツールを開発する。利用者にとってより扱いやすいように、ポリシーは、いろいろな観点毎に記述される。セキュリティ、性能など個別の観点毎に固有のパターン、ビジュアリゼーションツール等を構築する。ここでの、関連技術は、セキュリティモデリング、ビジネスモデリング等のモデリング技術である。

(e) 商取引エージェントへの適用商業活動におけるオントロジ、ビジネスプロセス/ビジネスルールの収集とパターン化を行い、ポリシーとの関係を明らかにする。さらに、収集したメタデータ、オントロジならびに振る舞いに関する知識を利用し、商業活動に特定した合意形成(価格形成を含む)技術の構築、サプライチェーンにおける受発注の適切な自律制御などを試みる。一般的にはB2B電子商取引における複数企業間でのビジネスプロセスの共有は重要な課題であり、複数企業にまたがった実行管理、試験/検証、動的な変更への対応と相互の調整などを具体的作業項目に挙げることができる。既存のB2B取引のフレームワークやXMLボキャブラリとしては、Rosettanet、CommercenetのeCo Framework、 ebXML、 tpaML(Trading-Partner Agreement Markup Language)などがあるが、本プロジェクトは、そうした個別の自律的な管理単位で採用される個々のフレームワーク、ならびにその上で規定されるビジネス上の個別ポリシーの有効性、独自性を活かしつつ、動的に統合することを目指している。

(4) 期待される成果と意義
まず、汎用性と拡張性を備えたポリシー記述言語を開発する。しかし、その言語でのポリシー構築を支援する技術がなければ、それを活かすことはできない。そこで、企業ないし提携企業グループなどの個々の自律的な管理単位での各種の観点のポリシー構築を支援する方法論とビジュアルツール、ならびにポリシーパターンのライブラリを構築する。その運用は、ポリシー分析ツールならびに競合解消エージェントによって行う。それによって、ポリシーは、ネットワーク環境の変化などの影響を最小限に抑えて継続的に保全されることになる。 戦略的観点から見た場合、本研究プロジェクトの狙いは、既に国内外で作られてきた、もしくは作られつつある各種プラットフォームを活かし、それらの機能、性能を落とさずに統合するための技術を確立し枠組を作り出すことにある。これによって、それぞれのプラットフォームの利点をできる限り有効利用することができるばかりではなく、今後の状況の変化に対しても動的に対応することを目指している。特に、ビジネスルールやビジネスプロセスといえるようなレベルのポリシーまでを対象とすることで、日本独自の商習慣/組織構造を海外主導で作られたプラットフォームに融合していくこともアプローチする。


3.申請予定先

IPA、NEDO、TAOなどの産学協同プロジェクト


4.準備調査の計画

基本的に、研究調査、技術討論、提案書の作成を並行に進める。研究領域が多岐にわたっているので、研究調査は、
 ・ AA '01 (Autonomous Agents 2001,2001年5月)
 ・ 15th ECOOP (European Conference on Object-Oriented Programming,2001年6月)
 ・ ESEC '01 (European Software Engineering Conference,2001年9月)
 ・ EDOC2001 (International Enterprise Distributed Object Computing Conference,2001年9月)
 ・ 5th MA (International Conference on Mobile Agents,2001年12月)
など、幅広く関連する国際会議に参加して行う。また、定例検討会を開催し、研究調査を踏まえた技術討論を行い、適宜、提案書の作成を進めていく。


5.メンバー

  本位田 真一  国立情報学研究所
  飯島 正     慶應義塾大学
  大蒔 和仁   産業技術総合研究所
  佐藤 健     国立情報学研究所
  武田 英明   国立情報学研究所
  渡部 卓雄   東京工業大学

 

 

 

e-ビジネスを実現する動的ソフトウェアサービス技術
 
南山大学 数理情報学部
教授  青山 幹雄

1.プロジェクト申請予定のテーマ

e-ビジネスを実現する動的ソフトウェアサービス技術


2.プロポーザルの概要

(1) テーマの背景
インターネット上でe-ビジネスを実現するための新たなソフトウェア技術が求められている。特に、e-マーケットプレースなどの企業間の電子商取引では多様なサービスを動的に組み合せて、リアルタイムにビジネスの変革を支援できる必要があるため、従来のソフトウェア技術では限界がある。これまで、SSRの戦略的調査研究として「次世代コンポーネントウェア」(平成10年度)、「ソフトウェアアーキテクチャ」(平成11年度)、「動的ソフトウェアサービス」(平成12年度)と調査を進めた結果、動的ソフトウェアサービス技術が今後のソフトウェア技術の核となる戦略的技術であることが明らかとなった[1-3]。一方、米国の主要ソフトウェア企業、大学、研究機関もソフトウェアサービス技術について2000年下期から研究・開発を始めており、「Webサービス」の名称でサービス記述言語WSDL (Web Service Description Language)、UDDI (Universal Description、 Discovery、 and Integration)などの提案が行われている。しかし、わが国でこの分野の研究開発はほとんど着手されていない。本テーマはe-ビジネスの根幹を成すことから、わが国のソフトウェア産業ならびに産業全体の競争力の鍵となる喫緊の課題である。

(2) テーマの狙い
ソフトウェアサービスとは、インターネット上でアプリケーションやコンポーネントをラッピングし、プラットフォームにかかわらず相互に連携可能としたものである。多くのe-ビジネスでは、検索、認証、決済等のサービスを組み合せて実現されている。このようなサービスをネットワーク上で公開、探索、組み合せてより高度なサービスやビジネスを実現する基盤環境、開発・検証技術を開発し、インターネット上でビジネスの変化にリアルタイムに対応できるソフトウェアの提供を可能とする。

(3) テーマの具体的な内容
@ サービス基盤技術: XMLをベースとしたサービス記述言語、サービスディレクトリ仕様などが策定されているが、萌芽的段階であることと、欧米の標準のみに基づいているという問題がある。このような問題に対し、次のようなテーマで研究を行う。
a) サービスブローカ技術: サービスを仲介するブローカのソフトウェアアーキテクチャとその実現技術の開発と実証。特に、異なるビジネスや取引に対応できるブローカの開発。
b) サービス記述言語: サービスを組み合せて高度なサービスを記述できる言語仕様。
c) ビジネス/サービス・ディレクトリ技術: サービスをインターネットに公開し、探索するディレクトリの情報構造。特に、わが国のビジネス慣行も踏まえた情報構造の提案。
d) モバイルエージェントによるソフトウェアサービス基盤技術の提案。
e) 携帯電話/PDAなどのモバイルe-コマースに対するソフトウェアサービス基盤技術のアーキテクチャの開発と実証。

A サービス開発技術: サービス開発技術はまだ研究開発がされておらず、今後のソフトウェアサービス技術の課題である。次のようなテーマで研究を行う。
f) サービス分析・設計技術: ビジネスモデルやユーザの振る舞いモデルに基づくサービスの分析・設計方法論の提案と試行評価。
g) ユーザ駆動型サービスモデル: B2Cなどで、個々のユーザの振る舞いをモデル化し、ユーザの多様性に対応できるサービス設計方法の提案。
h) ビジネスモデル駆動型サービスモデル: B2Bで多様な取引を動的に実行可能なサービス設計方法の提案。
i) サービス表記方法の提案とその支援環境の開発と実証。
j) サービス検証技術: サービスの動的振る舞いをモデル検証技術などにより設計段階で検証する技術。
k) サービスの動的組み合せ技術: 複数のサービスを動的に組み合せてより高度なサービスを提供するための組み合せ方法論と支援環境。

(4) 基礎とする技術
XML、Webサービス(WSDL、 UDDI、 SOAP、 ebXMLほか)、シナリオ/ユーザ指向設計、e-ビジネスモデリング技術、オブジェクト指向、コンポーネント技術、フレームワーク技術、エージェント技術

(5) 期待成果
個々の企業ではリスクの高い上記のテーマについてそれぞれの技術開発とともに、各技術開発を加速するためのソフトウェアサービス基盤参照テストベッドを開発する。これによって、複数の企業や大学がネットワーク上で連携してサービス技術の研究開発、実証実験を可能とし、研究から実践への技術移転を円滑にする。
@ ソフトウェアサービス基盤の参照テストベッドの開発:サービスやディレクトリなどを開発・実行するためのテストベッドとそれを支援するディレクトリサーバなどを立ち上げ、基盤技術の研究・開発とサービスの開発、試行・評価を迅速に行えるようにする。可能な範囲でオープンソースとして公開。
A 実証実験に基づきサービスインタフェースなどをW3Cなどの国際標準へ提案。
B サービス開発方法論の提案と試行サービス開発による評価。


3.申請予定先

文部科学省、経済産業省(IPA)、NEDOなどの公募する産学協同プロジェクト


4.準備調査の計画

産業界のメンバと提案者らを中心とする研究組織により、研究調査ならびに提案書の作成を行う。

(1) 活動の枠組み
研究調査: 2001年5〜12月
提案書作成: 2001年6〜2002年1月

(2) 研究調査
@ 国際会議での研究調査: ソフトウェア工学国際会議(ICSE)[ 2001年5月]、ソフトウェア工学の基礎国際会議(FSE)[ 2001年9月]、XML/Webサービスに関する会議などでの調査
A 技術交流: 米国Carnegie Mellon 大学SEI(Software Engineering Institute)などの大学、IBM T. J. Watson Research Center、Microsoft Researchなどの企業との技術交流

(3) 定例検討会と提案書作成
毎月の定例検討会と合宿検討会による研究調査の討議、提案書の作成


5.学側メンバー

青山 幹雄    南山大学
中所 武司    明治大学
中谷 多哉子  和歌山大学/SLagoon
深澤 良彰    早稲田大学
本位田 真一  情報学研究所

参考文献
[1] SSR動的ソフトウェアサービス技術調査研究WG、動的ソフトウェア・サービスに関する調査研究、産学戦略的研究フォーラム、2001年2月、http://www.iisf.or.jp/SSR
[2] 青山幹雄、E-ビジネスを実現するサービス指向ソフトウェア工学へのいざない、情報処理学会第62回全国大会特別トラック(4)講演論文集、No.3H-4、pp.43-47、2001年3月
[3] SSR動的ソフトウェアサービス技術調査研究WG、ソフトウェアサービス技術シンポジウム資料集、2001年4月

 

 

 

戦略的調査研究部門

 

セキュリティ教育に関する調査研究
 
東京理科大学 情報メディアセンター
教授  溝口 文雄

1.調査研究のテーマ

セキュリティ教育に関する調査研究


2.そのテーマの戦略的意義/位置付け

現在、官公庁、企業、大学などのホームページの改ざんが多発しており、最近では、一つのサーバーに侵入した後、他のサーバーへと自動的に増殖するタイプのものまで現れており、知らぬ間に自らセキュリティ犯罪の手助けをしてしまうケースまで現れている。また、依然として、メール添付型のコンピュータウイルスの被害は、留まることを知らないといった状況である。インターネットが日常的に利用される昨今において、一般ユーザーのセキュリティに関する知識と意識の向上が必要であり、メール添付型のウイルス等の被害は、これによって軽減させることが可能である。特に、企業や大学などの組織では、知識のないユーザーによってもたらされる被害は決して少なくはない。また、大学の研究室など規模の小さな組織では、ネットワークの専門家ではなく、学生など、一般ユーザーによる管理運営が行われているのが常であり、一般ユーザーのセキュリティに関する知識不足、及び、セキュリティ技術者の不足は深刻な問題である。
本調査研究では、セキュリティ技術者の養成、及び、一般ユーザーの教育に関する調査を行い、現状どのような教育カリキュラムが存在し、それがどのように行われているのかを明らかにすることが目的である。セキュリティ教育は、知識を与えることによる安全性の側面と、逆に、愉快犯などの危険性を伴うため、一般の教育とは異なり、その教育形態や実施環境に注意を払う必要がある。この調査結果をもとに、セキュリティ教育のための教材作成、ならびに教育実施のためのフレームワークの分析を行う。


3.調査研究の概要

本調査は、セキュリティ教育では、モラル的な教育から侵入検知の方法など専門的な教育といった幅広い段階が存在し、以下の項目に関して調査研究を行う。

(1) セキュリティ一般教育
(2) セキュアなネットワーク構成・システム設計に関する教育
(3) PKI、SSLなどの認証システムの利用に関する教育
(4) ハッキング・クラッキングに関する教育
(5) 侵入検知のためのログデータ分析に関する教育
(6) セキュリティ教育体制・環境

本調査におけるこれら6の領域は、研究チームによって調査する予定であり、企業内の社員教育、及び、国内・海外における大学組織内での教育事例を収集し、その教材情報や、実施体制、実施環境について、最新のセキュリティ教育に関する調査を行う。
また、今後の教育への展開についての調査研究も行う。例えば、カリフォルニア大学のGiovanni Vigna氏は、彼の講義の中で、実際のデータをもとにログデータの解析や侵入者の発見の方法など、現在の研究レベルの内容も扱っている。これらの調査をもとに、セキュリティ教育のための教材や教育システムの設計、教育体制、及び、教育環境に関する、将来の在り方の解析を行う。また、セキュリティ教育に関心のある企業に対し、戦略的な支援を提供する。SSRフォーラムの活動方針に従い、我々は、今年度末までにレポートを提供する。さらに、調査結果は全てウェブ上に保存する。


4.調査研究の進め方(共同研究者など)

調査委員会構成メンバーは以下のようである。

委員長  溝口 文雄   東京理科大学
      Wen Wu     東京理科大学
      萩谷 昌己   東京大学
      丸山 宏     日本IBM基礎研究所
      菊池 浩明   東海大学
      村山 優子   岩手県立大学
      西山 裕之   東京理科大学
      斎藤 道隆   東京理科大学
      平石 広典   東京理科大学